資料を集める私 K. Woo が、この事件でどうしても消せずにいる場面は、地下室でもなければ橋の上でもない。公園の駐車場だ。男が恋人を車に残し、自分が先に歩いて出ていったあの数秒。腹の中の子を守ろうとしたそのやさしい判断が、どうして正確に最悪の結果へつながってしまったのか──私はその場面を、もう何日も繰り返し見返している。

先に断っておく。この記事は噂ではなく、記録だ。アメリカ・ミシガン州警察の捜査発表、法廷記録、現地メディアの報道で確認された事実に沿っている。ただし最も残虐な細部(警察が永久非公開と決めた虐待の映像)は、存在に触れるだけで、描写はしない。死んだ者たちへの、せめてもの礼儀だ。

20年以上デザインが変わらないまま、青いリンクだけが並んだ中古取引サイトの画面。
20年以上デザインが変わらないまま、青いリンクだけが並んだ中古取引サイトの画面。

国民的サイトの「出会い掲示板」

クレイグスリスト(Craigslist)は、1995年にアメリカで始まったオンラインのノミの市だ。日本でいえばジモティーのようなもの。中古の冷蔵庫を売り、部屋を探し、仕事を見つけ、近所の人と会う場所。アメリカ人なら一度も使ったことがない人はいないほどの、国民的サイトだった。デザインは20年前のまま、青い文字のリンクがずらずらと並んだだけの、素っ気ない画面だ。その画面のどこかに、個人の「出会い掲示板」があった。

昼は平凡な近所の公園、夜になると街灯の間隔が遠くなる場所。
昼は平凡な近所の公園、夜になると街灯の間隔が遠くなる場所。

2014年7月、ミシガン

妊娠8ヶ月だった18歳、ブルック・スローカム(Brooke Slocum)。
妊娠8ヶ月だった18歳、ブルック・スローカム(Brooke Slocum)。

ブルック・スローカム(Brooke Slocum)、18歳。妊娠8ヶ月だった。恋人はチャールズ・オッペニア(Charles Oppenneer)、25歳。腹の中の子は、女の子だった。

ブルックの恋人、25歳のチャールズ・オッペニア(Charles Oppenneer)。
ブルックの恋人、25歳のチャールズ・オッペニア(Charles Oppenneer)。

7月2日、ブルックはクレイグスリストに、お金を貸してほしいという投稿を書き込んだ。出産まであと二ヶ月、金に困っていた。ただそれだけのことだった。返信は来なかった。すると事態は、別の掲示板へと移っていく──「出会い掲示板」だった。

7月12日、その投稿に返信が来る。名はハードマイク(Hard Mike)。メールが何度かやり取りされた。男は120ドル、日本円にして一万数千円ほどを出せると言った。場所はゲゾン公園(Gezon Park)、時間は夜11時30分から真夜中へと変わった。ブルックが尋ねた。警察じゃないですよね。男が答えた。警察じゃない。最後のメールは、夜10時59分に送られた。

持ち主のないまま駐車場に残された古いセダン──事件の始まりの地点。
持ち主のないまま駐車場に残された古いセダン──事件の始まりの地点。

先に降りた者

チャールズは1995年式のサーブを運転し、ゲゾン公園の駐車場に車を停めた。ブルックは車に残り、チャールズが先に降りた。取引が安全かどうか確かめようとしたのだ。恋人と、腹の中の子を車に残して、自分が先に闇の中へと歩いて出ていった。

男と会うやいなや、チャールズは殺された。そして斬首された。頭はその場から消えた。車に残っていたブルックは縛られ、トランクに積まれた。男はチャールズの車を公園にそのまま残し、ブルックを自分の家へ連れていった。そこからブルックの五日間が始まる。

暗い地下へと続く階段──あらかじめ用意された部屋があった。
暗い地下へと続く階段──あらかじめ用意された部屋があった。

白い仮面

7月13日、警察に一件の通報が入る。ゲゾン公園の近くで、白い仮面をつけた男が、停まっている車を一台ずつ覗き込んでいる──そんな通報だった。警察が向かってみると、持ち主のいないサーブが一台、駐車場に停まっていて、近くの地道でチャールズの財布が見つかった。警察はチャールズの家へ、両親の家へと向かった。誰もいなかった。

7月16日、公園脇の森で、木の枝に覆われた遺体が見つかる。チャールズだった。頭がなかった。

あるメールアカウントから別のアカウントへ、捜査官たちが辿ったデジタルの痕跡。
あるメールアカウントから別のアカウントへ、捜査官たちが辿ったデジタルの痕跡。

偽名を辿って

警察はブルックを捜し始めた。手がかりは一台のノートパソコンだった。ブルックが使っていたノートパソコンのメール履歴から、ハードマイクのGmailアカウントが出てきて、そのアカウントは別のYahooアカウントへ、さらに一つのFacebookアカウントへとつながっていた。名前はジョアット・エイモス(Joat Amos)。偽名だった。アカウントに登録された電話番号を辿ると、ワイオミング市タフト・アベニューの、ある住所が出てきた。ブレイディ・オエストライク(Brady Oestrike)、31歳。

偽名の裏にいた男、ブレイディ・オエストライク(Brady Oestrike)。
偽名の裏にいた男、ブレイディ・オエストライク(Brady Oestrike)。

警察がその住所を突き止めているあいだ、ブルックはその家の地下室にいた。五日目だった。のちに見つかった、事件の一週間前──7月5日付で撮影された映像があった。男が地下室を準備している映像だった。あらかじめ作っておいた部屋だった。

彼がブルックについた嘘が一つある。恋人は生きている、チャールズがもうすぐ迎えに来る、と。五日間ずっと、その言葉を繰り返した。チャールズの頭を切り落とした人間の言葉だった。

US-131の上を跨ぐ橋──追跡が終わった場所。
US-131の上を跨ぐ橋──追跡が終わった場所。

橋の上で

7月17日の夜、警察はタフト・アベニューの家の前で張り込んでいた。家宅捜索の令状を待っているところだった。夜9時、家から車が一台、抜け出していった。ブレイディだった。追跡が始まった。

車はUS-131高速道路の上を跨ぐ橋へと入り、ガードレールに突っ込んで停まった。警察が車に近づくあいだに、ブレイディは自分の頭に銃を撃った。警察がトランクを開けた。ブルックがその中にいた。すでに息を引き取ったあとだった。出産の二週間前で、腹の中の娘も、共にこの世を去った。

証拠で埋め尽くされた家──400点を超える物が押収された。
証拠で埋め尽くされた家──400点を超える物が押収された。

地獄そのもの

家を開けると、証拠として押収された物は400点を超えた。拘束の道具、複数のカメラ、そして男が自ら書いておいた契約書の形式の文書が一枚──人間を所有物として書き記した紙だった。虐待の場面を撮った映像も、すべてその家にあった。警察はその映像について、一つのことを発表した。あまりに残虐なので、永久に公開しない、と。アメリカの警察が証拠映像についてこうした決定を下すことは、めったにない。

ワイオミング警察署長のジェームズ・カーモディ(James Carmody)は、記者たちの前でこう語った。地獄そのものだった、と。自分のキャリアを通じて、最もむごたらしい事件だった、と。何十年も現場で過ごしてきた人間が、一軒の家を見て口にした言葉だった。

青いリンクだけが残った画面──20年以上開かれ続けていた掲示板は、ついに閉じられた。
青いリンクだけが残った画面──20年以上開かれ続けていた掲示板は、ついに閉じられた。

閉じられた掲示板、そして戻ってきた頭蓋骨

事件のあと、クレイグスリストは個人の出会い広告を段階的に締めつけ始めた。2018年には、アメリカで関連する法律が成立したことで、その掲示板そのものを完全に閉じてしまった。1995年から20年以上開かれ続けていた、あの青い文字のリンクは、そうして消えた。三人が死んだあとのことだった。

チャールズの頭は、長いあいだ見つからなかった。森を何度も捜したが、出てこなかった。それから何年か経ったある春、ケント郡で一つの頭蓋骨が見つかる。歯の記録と照合した結果、チャールズだった。家族はそこでようやく、葬儀をやり直した。

水遊び場が止まった夜の公園──すべてが始まった場所。
水遊び場が止まった夜の公園──すべてが始まった場所。

私はこの事件の捜査発表と報道を何度も突き合わせてきたが、毎回、同じ場所で止まる。7月12日の夜、あの公園の駐車場だ。チャールズが先に降りたのは、恋人と子を守ろうとする判断だった。この世で最も正しい行いが、あの夜には、正確に最悪の扉を開いてしまった。そして車の中のブルックは、そのあと五日間、あの人がもうすぐ迎えに来るという言葉を信じていた。すでに頭のない人間だった。

ここまでが、記録が語ってくれるすべてだ。それでも、ファイルを閉じるたびに、手が一度止まる。ブルックが最後まで信じていたあの言葉──もうすぐ迎えに来る、という言葉。嘘をついた人間はすでに死に、真実を知る二人も、この世にいない。だからあの五日間、ブルックが何を掴んで耐えていたのかは、もう誰にも訊くことができない……

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この記事には、実際の記録写真・現場資料と、物語の雰囲気を伝えるために制作したAI生成画像が使用されています。