1828年5月26日の午後、ニュルンベルクの人々は、市内の広場のひとつウンシュリット広場をよろめきながら横切る奇妙な人影を目にした。十六歳ほどの少年だった。体に合わない服をまとい、まるでたった今歩き方を覚えたばかりの幼子のように、脚をこわばらせて足を引きずっていた。地面が自分を支えてくれることを、たった今知ったばかりのような歩き方だった。話しかけても、彼はろくに答えられなかった。意味もわからぬ様子で、わずかな言葉を何度も繰り返すだけだった。その手には一通の手紙が握られていた。そして誰かがようやく彼から一つのまとまった文を引き出したとき、その言葉はその後二世紀にわたって響き続けることになる。彼は生まれてからずっと、小さく暗い部屋にたった一人閉じ込められて過ごし、自分に食べ物を与える者の顔さえ一度も見たことがない、というのだ。彼がやっと書いてみせた名は「カスパー・ハウザー(Kaspar Hauser)」だった。彼は五年後に死ぬ。雪に覆われた公園で、ついに捕まらなかった見知らぬ男の刃に刺され、自分がどこから来たのかという秘密をまるごと地中へ持ち去ったまま。どこからともなく現れ、同じようにどこへともなく消えた少年 ―「ニュルンベルクの捨て子」の物語である。

霧に包まれた19世紀ドイツの小さな町の夜明けの広場、人けのない石畳と古い木組みの家々、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)
霧に包まれた19世紀ドイツの小さな町の夜明けの広場、人けのない石畳と古い木組みの家々、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)

広場の少年

最初にカスパー・ハウザーに近づいた人々は、彼が酔っているか、物乞いか、あるいは田舎から迷い込んだ愚か者だろうと考えた。だが近くで見れば見るほど、そのどの説明も当てはまらなくなっていった。彼は体は健康で、それなりに食べているようでありながら、よろめかずには歩けなかった。明るい昼の光には、まるで一度も太陽をまともに見たことがない者のように顔をしかめ、手で目を覆った。大きな音にはびくりと身を縮めた。知っている単語はほんの数語で、自分の名すら幼子のように震える字で書いた。当時の若者にはありふれた食べ物だった肉やビールを勧められると、彼は嫌悪するように身を引き、パンと水以外は口にしなかった。まるでその体が、それ以外を知らないとでもいうように。

彼が握っていた手紙は、地元の騎兵連隊の大尉に宛てたものだった。名もなき一人の労働者の声を借りたその手紙には、1812年に赤ん坊だったこの少年が書き手のもとに預けられ、一度も外に出されることなく密かに育てられたと記されていた。今や成長した彼は「父がそうであったように」兵士になりたがっている、と。少年の母親が何年も前に書いたとされる二通目の小さなメモには、子の名がカスパー、生年月日が1812年4月30日と記されていた。ところがまもなく、目ざとい者たちが奇妙な点に気づいた。二通の手紙が同じ筆跡、同じインク、同じ折り目まで備えていたのだ。まるで一人の人間が二人分の物語をこしらえたかのように。カスパーが数文を口にするより前に、その後彼を生涯つきまとうことになる問いは、すでに空気の中に漂っていた。この少年は本物の謎なのか、それとも精巧に仕組まれた欺瞞の中心人物なのか。

古いドイツの町の狭い石畳の道、鎧戸を閉ざした高い家々が長い影を落とす曇天の昼、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)
古いドイツの町の狭い石畳の道、鎧戸を閉ざした高い家々が長い影を落とす曇天の昼、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)

闇の中で過ごした生涯

カスパーがより流暢に話せるようになると ― 彼は驚くべき速さで言葉を吸収した。幼子が数年かけて遂げる発達を、数か月でやってのけるように ― 彼は自分が来たという世界を語り始めた。それは、まっすぐ立つことさえできないほど低い、たった一つの小さな部屋だったという。窓も、光も、音もなかった。彼は藁の上で眠った。一日ごと、いや日の光のない場所で一日と呼べる時間ごとに、目を覚ますと傍らにパンと水が置かれていた。その水には時折薬が混ぜられていたと彼は信じていた。急に眠気が襲い、目覚めると藁が取り替えられ、爪と髪が整えられていたからだ。それを行った者を、彼は一度も見なかった。覚えているかぎり、彼の唯一の友は、部屋の床の上を押して遊んだ小さな木彫りの馬が二つだけだった。

監禁の終わりごろになって初めて、一人の男が彼のもとを訪れ始めたという。その男はいつも、カスパーが自分の顔を見ることのないよう注意を払っていた。男は彼に、知っている数語の書き方を教え、「私は父がそうであったように騎兵になりたい」という一文を覚えさせた。カスパーはその言葉を真似ることはできたが、意味はわからなかった。そしてある日、その男は頭巾をかぶせ、まともに歩く術も知らずよろめく彼を、闇の外へ、がらんとした野を越えて連れ出した。そして一通の手紙を手に握らせたまま、ニュルンベルクの入り口に彼を捨てて消えた。これらすべてが真実かどうか、誰にも確かめようがなかった。ただ、彼を診た医師たちは本物の奇妙な特徴を記録している。十分に発達していない足の裏、光と金属への極度の敏感さ、ほぼ完全な闇の中でも物を見る不気味な能力 ― 偽りようのない、少なくとも世界から切り離されて生涯を閉じ込められて過ごした少年とは辻褄の合う特徴だった。

窓のない狭い石造りの地下部屋、一本の蝋燭が揺らめき、床には藁と小さな木彫りの玩具の馬が二つ、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)
窓のない狭い石造りの地下部屋、一本の蝋燭が揺らめき、床には藁と小さな木彫りの玩具の馬が二つ、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)
一本の蝋燭が照らす暗い石の部屋をゆっくりと進み、炎がかすかに揺れる場面、実写ではない雰囲気再現(AI生成映像)

都市の捨て子

少年の噂はまたたく間に広まり、カスパー・ハウザーは一大センセーションとなった。一時期、彼はヨーロッパでもっとも話題にのぼる人物だった。誰かは彼を「ヨーロッパの子」と呼んだ。ニュルンベルクは彼を一種の市の被後見人として引き取った。彼ははじめある教師の保護のもとに置かれ、のちには何人もの後見人や家庭教師、後援者の手を渡り歩いた。いずれも彼の秘密を解き明かすか、その名声の余光にあずかろうとする者たちだった。学者たちが彼を研究した。貴族たちが彼を訪ねた。アンゼルム・フォン・フォイエルバッハという著名な法学者は彼の事件に深く関心を寄せ、この少年がありふれた捨て子ではなく、高い身分を持つ人物を狙った恐るべき犯罪の犠牲者だと確信するに至った。

カスパー自身も、世間の注目のなかで変わっていった。広場で見つかったときの野性的な少年は、良い服と注目されることを好む、いくらか虚栄心のある礼儀正しい青年へと成長した。そしてまさにここから、疑いが鋭さを増していった。一部の後見人は、彼が常習的な嘘つきだと信じるようになった。関心が薄れるたびに話を膨らませる、抜け目なく注目に飢えた青年だというのだ。一方で、彼が主張するとおりの存在だと確信し続ける者もいた。カスパーは永遠にその刃の上に立っているかのようだった。ありふれた詐欺師と呼ぶには奇妙すぎ、完全に信じるには芝居がかりすぎていた。そしてこの論争が決着に至るより前に、誰かが彼を殺そうとした。

高い書棚が並ぶ薄暗い19世紀の書斎、オイルランプと古い書き物机に開かれた帳簿、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)
高い書棚が並ぶ薄暗い19世紀の書斎、オイルランプと古い書き物机に開かれた帳簿、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)

最初の襲撃、そして秘密の警告

彼が現れてから一年余りが過ぎた1829年10月、カスパーは後見人の家の地下室で、額に傷を負い血を流しているところを発見された。彼は、頭巾をかぶった男が刃物か棍棒で自分を襲ったと語った。自分を閉じ込めていたまさにその男が、今度は口を封じに来たのだと彼は信じた。多くの者にとって、この襲撃は彼の物語のもっとも暗い解釈を裏づけるように見えた。カスパーが、人を殺してでも隠すべきほど危険な秘密を知っているか、あるいはその秘密そのものなのだ、と。懐疑派にはまったく別のものに見えた。関心が遠のくのを察した青年が自ら負った傷、仕組まれた自作自演だというのだ。その夜の真実はついに明かされず、これはその後起こるすべての出来事の雛型となった。カスパーの人生に起きたあらゆる劇的な出来事は、つねに二通りに読み解かれ、どんな証拠も天秤を一方へ決定的に傾けることはなかった。

このころ、彼の伝説を決定づけることになる一つの説が根を下ろした。カスパー・ハウザーは、ドイツ南西部の大公家であるバーデン家の失われた世襲王子だ、というささやきである。物語はこうだ。1812年に生まれたカール大公とその妻ステファニー・ド・ボアルネの本当の長男は、記録が語るように赤ん坊のうちに死んだのではなかった。代わりに、病弱だったその王家の赤子は、死にかけていた庶民の子と密かにすり替えられた。一族の対立する分家に王位を継がせるためだった。本物の世継ぎは地下牢に隠され、のちに始末される運命だった。その隠された世継ぎこそがカスパーだ、というのだ。出生のメモに記された1812年という日付が合致した。彼の洗練された繊細な物腰も合致するように見えた。そして彼の監禁と、ついには彼の殺害への動機が、一瞬にして所を得た。抗いがたい物語だった。それが真実かどうかは、まったく別の話であったが。

冬枯れの木々が並ぶ雪に覆われた霧の公園、人けのない石のベンチ、冷たい灰色の光、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)
冬枯れの木々が並ぶ雪に覆われた霧の公園、人けのない石のベンチ、冷たい灰色の光、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)

アンスバッハの公園

1833年、カスパーはアンスバッハという町で、イギリス貴族スタンホープ卿の後見のもとに暮らしていた。かつて彼を熱心に擁護しながら、いつしか冷ややかで疑い深い態度に転じた人物だった。今や二十一歳ほどになったカスパーは、ある法律事務所で筆写係として働いていた。12月14日、一人の見知らぬ男が、じらすような約束を携えて彼に近づいた。自分はカスパーの本当の出生に関する情報 ― 彼の母、彼の誕生、彼がどこから来たのかという秘密 ― を持っている、宮廷庭園のホーフガルテンへ来れば教えよう、というのだ。自分が何者かを知らぬまま生涯を過ごしてきた少年には、とうてい振り払えぬ餌だった。

凍てついた人けのない公園で、その見知らぬ男はカスパーの胸を一度、深く刺し、冬の午後の中へ消えた。傷を負ったカスパーは家までよろめきながら戻り、何が起きたのかを息も絶え絶えに打ち明けた。人々がその場所へ行ってみると、雪の上に彼の足跡が残されていた。そして一部の記録によれば、現場には小さな財布が一つ落ちており、その中には鏡に映さねば読めない鏡文字で書かれたメモが入っていた。その内容は、誰の名も挙げず何も説明しない、謎めいて思わせぶりなものだった。カスパー・ハウザーは三日後の1833年12月17日、その傷が原因で息を引き取った。彼の最期の日々は、生涯彼につきまとった同じ疑いに覆われていた。危険な王家の世継ぎを黙らせるために雇われた刺客が来たのか、それとも切羽詰まり注目に飢えた青年が最後の一幕を演出し、自ら刃を深く入れすぎたのか。彼は生きたとおりに、答えのない一つの問いとして死んだ。

枯れ木の間を霧の中へ続く雪上の一筋の足跡、そのそばに落ちた小さく黒い財布、冷たい冬の光、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)
枯れ木の間を霧の中へ続く雪上の一筋の足跡、そのそばに落ちた小さく黒い財布、冷たい冬の光、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)

二世紀の疑い ― そしてそれをほぼ終わらせたDNA

二百年近くのあいだ、二人のカスパーは一つに溶け合うことを拒みながら並び立ってきた。一人目は悲劇の王子だ。王朝の強欲によって生まれながらの権利を奪われ、闇の中に塗り込められ、真実に近づいたその瞬間に殺された無垢な子ども。二人目は詐欺師だ。ありもしない監禁をこしらえ、襲撃を偽装し、残酷な偶然か致命的な誤算か、自らの伝説の最後の幕を演出したあげく命を落とした、狡猾で傷ついた自己演出家。幾世代もの作家や歴史家、素人探偵たちがどちらか一方に肩入れしてきたが、その大半の時間、証拠は決着をつけるにはあまりに乏しく、あまりに古すぎた。

そこへ科学が物語に割って入った。1996年、ある研究所が、カスパーのものとされる血 ― 刺されたときに彼が着ていたズボンに残った血痕 ― を分析し、母系で受け継がれる遺伝の糸であるミトコンドリアDNAを、バーデン家の現存する子孫と比較した。一致しなかった。王子説は終わったかに見えた。だが擁護派は反撃に出た。その血痕は本物ではないかもしれない、いや、博物館の学芸員たちが年月をかけて他人の血で「補修」してきたのかもしれない、という主張まで飛び出した。しかも紛らわしいことに、数年後にカスパーの毛髪を対象とした別の検査では、かえってバーデン家に近く見える結果が出た。論争は深まるばかりだった。決着がついたのは2024年になってからである。法医遺伝学者ヴァルター・パルソン率いる研究チームが、もともとネアンデルタール人の壊れやすいDNAを読み解くために開発された現代の塩基配列解析技術を用い、彼が死ぬ前と後にそれぞれ採取された複数の毛髪の束を分析した。それらの試料はすべて互いに完全に一致した ― それらが実際に同一人物から採られたものであることが、初めて証明されたのだ。そしてそのいずれもが、バーデン家の母系血統とはっきりと異なっていた。失われた王子説は、ほぼ完全な確実性をもって排除できる、というのが研究の結論だった。

しかしそれでも、事件は閉じない。カスパー・ハウザーがバーデンの王子ではなかったと証明することは、彼が実際に誰だったのかを証明することではない。広場に現れた少年の奇妙な状態も、一人の偽造者の筆跡で書かれた手紙も、二度の襲撃も、雪の上の鏡文字のメモも、何一つ説明してはくれない。もし彼が隠された世継ぎでなかったのなら、いったい誰が彼を閉じ込め、なぜそうしたのか。それとも、そもそもそんな部屋など初めからなく、あったのは心を病んだ一人の青年と、大陸全体を呑み込んだ一つの物語だけだったのか。ラテン語で刻まれたアンスバッハの彼の墓碑だけが、歴史がこれまで唯一合意できた判決を告げている。ここにカスパー・ハウザー眠る、その時代の謎。その出生は知られず、その死は謎に包まれた。 二世紀近くを経た今なお、どこからともなく現れたあの少年は、いまもそこを歩き続けている ― あらゆる答えの手が届かない、そのすぐ向こうで。

夕暮れの同じドイツの町の広場、霧の中へ消えていく人けのない石畳、遠くにともる一つの灯り、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)
夕暮れの同じドイツの町の広場、霧の中へ消えていく人けのない石畳、遠くにともる一つの灯り、人物なし、フォトリアル(AI生成画像)